展覧会

【展覧会感想】「ルーヴル美術館展 愛を描く」国立新美術館

最後の一室のみ撮影可でした。
今回も感想を書いていきます。

展覧会概要

「ルーヴル美術館展 愛を描く」
会期:2023年3月1日(水)ー2023年6月12日(月)
会場:国立新美術館
休館日:毎週火曜日 ※ただし3/21(火祝)・5/2(火)は開館、3/22(水)は休館
巡回:京都市京セラ美術館 / 2023年6月27日(火)-9月24日(日)

西洋美術のなかでもとりわけ数多い主題を扱った展覧会。
ルーヴル美術館展、と名の付くものは過去に数回観ていますが切り口が異なるとまた新鮮に観ることができます。

ルーヴルが誇る珠玉の“愛”の絵画が一堂に!

人間の根源的な感情である「愛」は、古代以来、西洋美術の根幹をなすテーマの一つであったといえるでしょう。ギリシア・ローマ神話を題材とする神話画、現実の人間の日常生活を描く風俗画には、特別な誰かに恋焦がれる神々・人々の情熱や欲望、官能的な悦び、あるいは苦悩や悲しみが、様々なかたちで描かれています。一方、宗教画においては、神が人間に注ぐ無償の愛、そして人間が神に寄せる愛が、聖家族、キリストの磔刑、聖人の殉教といった主題を介して、信者たちに示されています。
本展では、西洋社会における様々な愛の概念が絵画芸術にどのように描出されてきたのか、ルーヴル美術館の膨大なコレクションから精選された73点の絵画を通して浮き彫りにします。16世紀から19世紀半ばまで、西洋各国の主要画家の名画によって愛の表現の諸相をひもとく、かつてない趣向の展覧会です。ぜひご期待ください。

【公式】ルーヴル美術館展 愛を描く 展覧会ホームページ-みどころ

感想 / 「アドニスの死」の構図が美しく好きな作品に

展覧会の構成は以下の通りです。

プロローグ-愛の発明
Ⅰ.愛の神のもとに-古代神話における欲望を描く
Ⅱ.キリスト教の神のもとに
Ⅲ.人間のもとに-誘惑の時代
Ⅳ.19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇

プロローグ:フランソワ・ブーシェ

本展覧会の最初を飾るのは、フランソワ・ブーシェ『アモルの標的』(1758年)です。

フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》1758年 Photo © 2008 RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Gérard Blot


ブーシェの作品は人や風景、色使いも含めて描写がとても可愛らしく、特にこのアモルたちそれぞれの表情が好きです。
私には真剣な顔で一生懸命に愛を作り出す仕事をしているようにみえて愛らしくみえます。

第一章:「アドニスの死」

続いての第一章でも、古代神話が主題の作品が展示されています。
私は古の人間の大きな空想が面白いと感じて、そういう意味でギリシャ神話は好きです。

若さや見た目への欲から奪いとったり連れ去ったりそれは愛で括っていいのでしょうか、とツッコミを入れたくなってしまうことは多いですが。
物語の中でもっともセンセーショナルな場面を切り取って描いたものが多いです。

劇的なものに意識をもっていかれてしまうのは、どの時代の人間も大して変わらないよなと思ったりもします。

このセクションのなかで絵として好きだなと感じたのは、16世紀後半にヴェネツィアで活動した画家『アドニスの死』(1550-1555年頃)でした。

16世紀後半にヴェネツィアで 活動した画家《アドニスの死》1550-1555年頃 Photo © 2017 RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Tony Querrec


愛の女神ヴィーナスと絶世の美青年アドニスの悲劇的な場面。
人物が多いながらも構図が美しく、細部まで物語があり見ていて面白い絵だと思います。
これだけの絵を残していても、名前までは残らなかったことを考えてしまいます。

第二章:サッソフェラート

第二章では、キリスト教における愛がテーマの展示されています。
サッソフェラート『眠る幼子イエス』(1640-1685年頃)の作品がとても印象に残っています。

サッソフェラート《眠る幼子イエス》1640-1685年頃 Photo © 2009 RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle


マリアの表情と天使たちに包まれるような構図が美しく、キリスト教が主題ではあるけれど単純に親子でもある姿になぜだかほっとさせられます。

第三章:ジャン=オノレ・フラゴナール

オランダでは17世紀、フランスでは18世紀になると、現実世界での人間の恋愛模様が描かれていきます。
仕方ないですしそれが歴史なのですが、誰かの願望が表された絵が多いなと感じてしまいます。そのなかでもジャン=オノレ・フラゴナール『かんぬき』(1777-1778年頃)は見応えのある作品だと感じました。

ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777-1778年頃 Photo © 2010 RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle


感情の波が伝わってくるような絵です。
意味のこもったモチーフ、例えばリンゴやツボ、バラの花などが静かに添えられているのも見どころでした。

また、個人的には高い天蓋や大きな扉と、人物との対比が不均衡に感じられて不思議な感覚になります。

第四章:パストラル=牧歌

西洋には文学ジャンルの一つとして「パストラル」があります。
パストラルとは牧歌を指す形容詞であり、田園の若い羊飼いや農民の清らかな恋をテーマにしていました。
宮廷社会の規則のなかで生きる上流階級の人々にとって理想の世界にうつり、人気を博したのだそうです。

このセクションで印象深かったのは、クロード=マリー・デュビュッフ『アポロンとキュパリッソス』(1821年)テオドール・シャセリオー『ロミオとジュリエット』(1850年頃)の二作品でした。

この二作品の画像は私自身が展示室で撮影したものです。

クロード=マリー・デュビュッフ『アポロンとキュパリッソス』1821年 


デュビュッフはロマン主義の特徴が色濃く、破滅的な愛が描かれています。
当時の感覚では男性同士の愛に生き、個人を重視する愛そのものが破滅的と捉えられていたのですね。
そこには自由な個人がいて、鑑賞する人は純粋な愛を見出していたのかもしれません。

テオドール・シャセリオー『ロミオとジュリエット』(1850年頃)


同じくロマン主義のシャセリオーの絵です。
悲劇的な場面に違いないけれど、表情を描いてあらわすのではなく二人を包む背景や線そのもので表現しています。
圧倒的にみていて面白く、表情がだんだんと見えてくるような体験でした。

全体を通して「愛」に通じる神や人間をみることができる豊かな展覧会でした。

絵の中にある当時の人々の暮らしや憧れ、信じてきたもの。
美術に限らず歴史を辿ることは、現代とのずれに驚く体験でもありますが本当に楽しいものです。
これからもそれぞれの時代で人が残してきたものをたくさん観に行こうと思います。

東京では6月12日(月)までの展覧会です。
ぜひ観に行ってみてくださいね!

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