展覧会

【展覧会感想】「森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」森美術館


友人となにか面白いものやっていないかな?と検索して見つけました。
現代アートを通じて世界を学べる展覧会でした!
感想をつづります。

展覧会概要

「森美術館開館20周年記念展
ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」

会期:2023年4月19日(水)- 9月24日(日)※会期中無休
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)


本展は、学校で習う教科を現代アートの入口とし、見たことのない、知らなかった世界に多様な観点から出会う試みです。展覧会のセクションは「国語」、「社会」、「哲学」、「算数」、「理科」、「音楽」、「体育」、「総合」に分かれていますが、実際それぞれの作品は複数の科目や領域に通じています。また、当館の企画展としては初めて、出展作品約150点の半数以上を森美術館のコレクションが占める一方、本展のための新作も披露され、54組のアーティストによる学びの場、「世界の教室」が創出されます。

森美術館公式ホームページ-展覧会-クラスルーム

感想 / 世界を知るきっかけとなる現代美術の面白さ!

この展覧会、ふだんの私の検索から抜け落ちていました。
友人から「これはどうかな?」とリンクが送られてきて、見かけていたものだけどスルーしていたことに気付きました。
この展覧会タイトルだけではなにが観ることができるのか分からない、と感じてチェックしていなかったんです。
結果、良い展覧会だったのでその感想をシェアします!

展覧会構成 / 全8章

展覧会の構成は以下の通りです。

それぞれのセクション内容については、関連が分かるよう、展覧会ホームページを参考に私が短くまとめたものです。

1.国語
言葉や言語をテーマにした作品、文学や詩の要素を含む作品を紹介する

2.社会
世界各地の歴史、政治、地理、経済、アイデンティティに関わる課題を取りあげる

3.哲学
生きることや世界の真理、普遍性を探究する哲学の分野は、古くから美術と非常に深い関係にある

4.算数
数字は多くのアーティストが扱ってきた普遍的なテーマである「時間」にも深く関係している

5.理科
自然科学の領域とも、現代アートは無関係ではない。科学的な視点から見えてくる世界の法則や自然のすがたは、アーティストの創造性を刺激してきた

6.音楽
音楽は、空気の振動という意味では理科や算数と並び、科学的な領域でもある
現代アートでは、音や音楽に関連する視覚的な要素を主題にする作品や、音や音響の意味や仕組みを考えさせるコンセプチュアル・アートがある

7.体育
現代アートにおける身体的な運動や行動に着目した表現、身体そのものの作品化は、1960年代から「パフォーマンス」としてその位置づけを確立してきた

8.総合
最後のセクションである「総合」では、ひとつの科目に収まらず、より幅広い領域を横断するような作品やプロジェクトを紹介する

セクションのタイトルだけでは展覧会の全貌が見えてこないですが、個々の作品を続けて観ていくと意味するところが分かっていくよう作られていました。

では、私の気になった作品を振り返りつつ感想を書いていきます!

1.国語

最初を飾る作品は、ジョセフ・コスース《1つと3つのシャベル》(1965年)でした。
※撮影NG

”シャベル”を実物・写真・言葉で表したコンセプチュアル・アートです。

これを観て本展覧会のセクション分けの意味がすこし分かるように思えました。
国語ではなく、哲学でもいいのかなと考えたり。

文字が織り込まれた織物
イー・イラン《ダンシング・クイーン》2019年

こちらは、いくつかのヒット曲の歌詞が部分的に切り取られた言葉が引用された織物です。

キャプションを読むより前にこの作品の特徴を知る体験をしました。
海外からの観光客であろう女性二人組がこの作品の前で歌を口ずさんでいたのです。

キャプションを読むと、引用された曲を歌うのはみな女性であり、織物の上に座ってさまざまな仕事をしてきた女性たちの日常にも流れていたかもしれない、という関係性を作品に落とし込んでいることが分かります。

住む場所を限定せず広がるヒット曲は、日常を過ごす私にまで繋がり、力を与えてくれることはたくさんあります。

明るいイメージを感じる作品でした。

しきつめるように文字が書かれた黒板
ワン・チンソン《フォロー・ミー》2003年

こちらは展覧会ポスターに採用されている作品。

黒板に書かれている内容が興味深いです。
フォロー・ミーの”ミー”に当たるのはなんだろうと考えつつ鑑賞しました。

2.社会

歴史、文化、政治、経済など多岐に渡るテーマの作品が集まっていました。
とりわけ戦争の痕跡を残したものが多いセクションだったように思います。

撮影できませんでしたが、ディン・Q・レ《光と信念:ベトナム戦争日々のスケッチ》2012年というインスタレーション作品も印象に残りました。

従軍画家に焦点があたっており、ひじょうに興味深く観ていました。

壺とアイ・ウェイウェイ
アイ・ウェイウェイ《漢時代の壺を落とす》1995/2009年,《コカ・コーラの壺》1997年

池の写真
ヴァンディー・ラッタナ《コンボントム》(「爆弾の池シリーズ」より)2009年

ベトナム戦争で米軍が落とした爆撃により生じた池を撮影したもの。

テーブルが織り込まれたカラフルな織物
イー・イラン《TIKAR/MEJA(Mat/Table))》2022年

ヨーロッパ諸国による植民地支配によって生活様式が変えられた事実をマレーシア伝統の織物に投影した作品です。
それまでマレーシアにはマットはあったけれどテーブルはなかったのだそうです。

たくさんの古い看板
ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト《グラフィック・エクスチェンジ》2015年


古くからあるさまざまな商店や事業者などの看板を譲り受ける代わりに、新しい看板のデザインと制作を請け負うプロジェクトです。

上記の実際に譲り受けた看板のほかに、店主へのインタビューなどを収めた記録映像が展示されているので、より分かりやすい作品になっていました。

これらの看板に象徴されるのは、時代や社会の要請によりあっというまに変わってしまう都市の姿です。

鑑賞しながら、自然と私の身の周りから世界の変化まで思いを巡らしていました。

3.哲学

アラヤー・ラートチャムルンスック《授業》(2005年)は撮影しませんでしたが、アプローチに衝撃を覚えた作品でした。

大学で教鞭をとってきたラートチャムルンスックが、引き取り手のいない遺体を前に「死」について講義をするという16分に及ぶビデオ作品です。

考えることをするはずもないかれらを前に、問いを投げかけたり、質問はないか聞いたり。

これを観て何を思ったか振り返ってみましたが、時折異様に死が怖くなって怯えたりはしても、ふだんは忘れて生きている自分が浮かんできました。

これまで死を題材とした作品は多く観てきたけれど、死を目の前にした対話という形にどうしても目が捕まり、最後まで観ていました。

より詳しい解説を読んでみたい方はこちら(公式ホームページ)へどうぞ。

目を瞑る女の子の絵画
奈良美智《Miss Moonlight》2020年

奈良さんのミスムーンライトを観るのは、「STARS展:現代美術のスターたち -日本から世界へ」以来二度目だと思います。

観ていてほっとする、やさしい光を感じる絵です。
椅子に腰かけて、つかの間だけれどゆったり観ていたい、そんな気持ちになります。

こちらをみることなく、自分の世界に佇む彼女は何を思っているのでしょうか。

※4.算数~7.体育のセクションはご紹介できるものが少ないので割愛しています

8.総合

会場風景
ヤン・ヘギュ《ソニック・ハイブリッドーデュアル・エナジー》2023年(部分)

おお、なんだか要素が多い!けれどまとまりがあるので観ていられる、そんな作品でした。

エネルギーの循環を意識した立体作品や壁紙などの新作が展示されていました。

それぞれのモチーフのうちいくつ何が示されているか理解できただろう、と考えました。

ひとくちには言い表すことのできないテーマの複雑さは、この一室全体を使った展示だからこそ表現できるもののように思いました。

展覧会カタログのデザインが良い!

展覧会カタログ
会場出口の物販風景

今回のカタログ、とてもいいデザインでした!
学生の使うノートのような見た目です。
世界が教室となった本展覧会にふさわしいですよね。

まとめ

世界全体が現代美術を通して教室になるという壮大な展覧会。
とっちらかることなく、それぞれのセクションでの作品紹介に納得できるつくりでした。

面白い現代美術を一気に鑑賞でき、飽きることなく最後まで楽しめるだろうと思います。

「森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」は9月24日(日)まで。

気になっている方はぜひ行ってみてくださいね。


ここまで読んでくださりありがとうございました!


終わり。

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